
春の陽気に包まれた4月の白馬。雪解けが進む麓の町を出発し、私たちはスプリットボードと一泊分のザックを背負い、残雪が広がる山の世界へと足を踏み入れました。
目的地は、静かな山奥にある秘湯・蓮華温泉。
今回のツアーをガイドしてくれたのは、Sweet Protectionのアンバサダーである「廣岡立三」さんと「森亜希子」さん。彼らがどのようにルートを選び、どのような斜面を滑り、そしてお客様とどんな時間を過ごすのか。そんな、日常の延長にはない時間を共有したくて、1泊の蓮華温泉ツアーを企画しました。
廣岡立三さん
森亜希子さん
秘湯・蓮華温泉へ、スプリットボードで向かう旅
例年はスノーモービルでアプローチする猿倉までのルートでしたが、今年はあえて“歩く旅”を選択しました。
蓮華温泉は、白馬連峰の麓、標高約1,475mに位置する隠れた温泉地。夏までは道路が閉ざされているため、山を越えてしか辿り着けない場所です。まさに“辿り着く価値のある温泉”と言えるでしょう。今年は水不足が心配されていましたが、当日は野天風呂にもお湯が届いており、登山や滑走の疲れを癒すには十分すぎるほどの温もりを湛えていました。
ワクワクがあふれるスタート
ツアーは栂池スキー場のゴンドラとロープウェーから始まります。終点でスプリットボードにスキンを装着。BC慣れしたメンバーたちは手慣れた様子で準備を進め、軽く会話を交わしながらも、みな心なしかワクワクしている様子。
まるで遠足前の子どものような、そんな静かな期待感が体から溢れていました。
天狗原に到着し、しばし休憩。ガイドの2人がコースについて相談します。乗鞍岳の山頂を越えるルートか、巻き道を選ぶか。
最終的には雪のコンディションと滑りの気持ちよさを最優先に考えてルートを決定。今回は乗鞍岳を巻きながら、斜面をつなぐ形で蓮華温泉へ向かう選択をしました。
雪の音に耳を澄ませながら滑る
最初の滑走。廣岡さんが切り込むと、雪面からザザザーという音が。慎重な滑りが求められる雪質です。その後は再びスキンをつけ、ひたすら雪原を歩く時間が続きます。
左に乗鞍岳、右手には遥かに日本海。心が解き放たれるような景色が広がっていました。
「私たちは今、新潟県の山奥へ向かって旅をしているんだ。」
そんな実感が、胸にじわじわと広がっていきます。
乗鞍沢で、大人たちは本気になる。
やがてたどり着いたのは「乗鞍沢」――スノーボーダーが大好きな、自然の壁が連続する沢地形。
参加者たちは次々と“当て込み”(壁を利用した滑り)を披露し、まるで競うように高度を更新していきます。
歓声が斜面に響く、楽しい時間。
滑り手同士の高揚感と挑戦心が、無言のままリンクしていく様子は、どこか美しくもありました。乗鞍沢の上部はデブリも多くテクニカルでしたが、下部は快適。集中とリラックスを繰り返しながら、山の中を縫うように進む。北海道では味わえない急峻でロングな沢地形に、滑り手としてのスリルを感じずにはいられませんでした。
途中、ガイドたちが「過去最高のコンディション」と口にしたのが印象的でした。
“廣岡立三の男塾”と呼ばれる最後の直登
最後の直登は、静かな戦い。普通ならジグを切りながら登ってもいいような斜度でも、メインガイド・廣岡さんのラインはまっすぐです。参加者それぞれが息を整えながら自分と向き合う時間。
廣岡さんの“男塾”と称される登りでした。
登り終えた先に現れる赤い屋根の蓮華温泉。
ツリーランを滑り終えた先に、ようやく辿り着いた安らぎの場所。御主人の田原さんが、穏やかな笑顔で迎えてくれ、温かい夕飯と静かな時間がそこには待っていました。
心と身体を解きほぐす温泉と時間
今年は野天風呂のうち1つだけが入浴可能。それでも、スキーでしか来られない秘湯で味わう温泉は格別です。私は静かな内湯で、ゆったりと旅の疲れを癒しました。夕食はツアー参加者8名、ガイド2名、カメラマン、私を含めた計12人で囲む山の食卓。
温泉、ごはん、自然、仲間。そして、山で過ごす夜。
夜は、みんなで晩酌をしながら、Sweet Protectionの製品を紹介する場面もありました。実際に試着してもらい、使い心地を体験してもらう。それもまた、リアルな声を聞く大切な機会です。
夜9時には消灯。山のリズムに合わせて、みんな静かに眠りにつきました。
写真:鈴木健人
筆:SweetProtection Japan 林